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 論文リスト(要旨付)※毎月更新

  2019/02

・小舘亮太・田中岳(2012)「児童とその保護者を対象にした防災意識の相違ー意識調査を取入れた防災教育プログラムの実践ー」 『土木学会論文集F6(安全問題)』 Vol.66, No.2, I_181-I_186

 大震災以降、個々の防災力の向上のため、行政、地域社会、住民相互の連携が求められている。児童に着目すれば,学校社会での防災教育と保護者との知識、情報の共有が重要となる。しかし多くの学校現場では、防災訓練と教員の試行錯誤による教育の実践にとどまっている。
 本研究では、防災教育プログラムの開発を目的として,身近な災害の紹介などと、防災意識調査による教育プログラムを児童に実践すると共に、その保護者にも同様の調査を実施し、その教育効果と、児童と保護者間の防災意識の相違を検証した。その結果、児童と保護者の防災意識の向上として、本プログラムの教育効果が確認された。また、児童と保護者間で避難経路や避難場所の情報共有に差違が認められた。​

・M. Yasuda, C. J. Yi, R. Nouchi, A. Suppasri & F. Imamura,International Research Institute of Disaster Science,Tohoku University, Japan, 2016, "A practical application of a children’s disaster prevention education program in the Philippines”,WIT Transactions on The Built Environment, Vol 160

 大きな全災害では、子どもや高齢者が死亡率、負傷率の多くを占めている。このような事態を防ぐために、事前の訓練が必要とされている。東北大学のInternational Research Institute of Disaster Science (IRIDeS)はフィリピンの小学生の間で地域社会の災害の影響を減らすために防災教育チームを配置した。この防災教育はいくつかのワークショップに分かれ、高学年の小学生を対象に行った。4つの小学校でおこなった。本教育プログラムは生存能力開発を通して災害関連の自己回復力を向上させることが目的だ。

 日本やフィリピンといった国々では、地域ごと災害から身を守るため対策を講じることが必要とされている。しかし、現在の国の現状とその既存の災害対応策を評価する際に、フィリピン政府が積極的な行動を取らないと、恐ろしい悲劇が再び発生する可能性がある。

 代表的な防災は2通り存在する。防災の構造な側面とそうでないものだ。

 フィリピンではIRIDeSが避難訓練とワークショップを合計218人の生徒に実施した。ワークショップの目的は、災害時の適切な対応について適切な知識を提供するためである。ワークショップと避難訓練後の調査によると、自然災害に対する恐怖が減少した。自然災害の発生するメカニズムや、防ぐ手段を学ぶことが改善したと考えられる。さらに、家族がケガなどを負うことを正しく理解していることも分かった。

 本論文ではフィリピンの事例ではあるが、海外の災害が多い地域でも防災訓練を行う必要はあるだろう。​​​​​

 2019/03

・豊沢純子・唐沢かおり・福和伸夫(2010)

「小学生に対する防災教育が保護者の防災行動に及ぼす影響ー子どもの感情や認知の変化に注目してー」『教育心理学研究』58(4), 480-490

 本研究は、脅威アピール研究の枠組みから、小学生を対象とした防災教育が、児童の感情や認知に変化を及ぼす可能性、及び、これらの感情や認知の変化が、保護者の防災行動に影響する可能性を検討した。

 135名の小学校5年生と6年生を対象に、防災教育の前後、3ヵ月後の恐怖感情、脅威への脆弱性、脅威の深刻さ、反応効果性を測定した。また、防災教育直後の保護者への効力感、保護者への教育内容の伝達意図と、3ヵ月後の保護者への情報の伝達量,保護者の協力度を測定した。その結果、教育直後に感情や認知の高まりが確認されたが、3ヵ月後には教育前の水準に戻ることが示された。また共分散構造分析の結果、恐怖感情と保護者への効力感は、保護者への防災教育内容の伝達意図を高め、伝達意図が高いほど実際に伝達を行い、伝達するほど保護者の防災行動が促されるという、一連のプロセスが示された。考察では、防災意識が持続しないことを理解したうえで、定期的に再学習する機会を持つこと、そして、保護者への伝達意図を高くするような教育内容を工夫することが有効である可能性を議論した。

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・ Wei Chen, Guofang Zhai, Chenjing Fan, Wenbo Jin & Ying Xie, 2016, "A planning framework based on system theory and GIS for urban emergency shelter system: A case of Guangzhou, China", Human and Ecological Risk Assessment: An International Journal Volume23 Issue3 Page 441-456

 この論文では中国において、理論システムと地理情報システム(GIS)を用いて災害時の避難所の枠組みを策定している。避難所は災害発生時の経済の停滞を軽減する役割をもっており、台風や洪水、地震などさまざまな自然災害に対応することのできるシステム作りが必要である。避難所はいくつもの種類に分類される。まず初めに、それぞれ避難にかかる時間や避難所の面積など特色の違う、中央避難所、固定避難所、一時避難所の3種類に分けられる。それと同時に屋外か屋内の2パターンに分類され、避難所を設計する際にはそこからされに細かく設定された項目ごとに沿って特徴を考える。適切な水準の予防策を考えるために、各地域のリスクを数値化する必要がある。その場合に使用した数式が以下のものである。

      Risk = Hazard × Vulnerability / Capacity

結論として、急速な経済成長率に見合うだけの避難所の整備が進んでいないのが現在の大きな課題である。各地域で防災関係のシステム整備を促進しようとする風潮はあるが、経験不足によりうまくいっていない。より有効で効率的なフレームワークに改善するために、継続的な研究を行うべきである。

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    2019/04

・林秀弥 金思穎 西澤雅道 筒井智士(2016)『熊本地震を踏まえた地区防災計画等による 地域防災力強化の在り方』名古屋大学法政論集 / 名古屋大学大学院法学研究科編267, 247-298

 2016年4月に熊本地震が発生し、震災関連死の可能性のある者を含めると同年6月はじめ時点で、約70名の死者・行方不明者が出た。筆者らは、発災後から熊本市を中心にインタビュー調査を実施したが、九州地方では、行政関係者も地域住民等も、地震が発生しないという思い込みが強く、東日本大震災等の教訓を自分の問題としてとらえることができていないほか、国の普及啓発活動で求められている内容と比較して、防災意識、備蓄等が著しく不十分であった。本稿では、このような熊本地震の被災地の状況を踏まえつつ、2013 年に災害対策基本法改正によって創設された地域住民や事業者による自発的な地域コミュニティの防災計画制度である「地区防災計画制度」の活用の在り方や普及啓発の問題点等について考察されたものである。

   2019/08

​・Allen, Katrina M. "Community‐based disaster preparedness and climate adaptation: local capacity‐building in the Philippines." Disasters 30.1 (2006): 81-101.

 

コミュニティでの災害に対する意識(CBDP)とは、災害対応の戦略にとても重要な要素である。歴史的にも、トップダウンの方式が、災害管理の際に用いられてきた。そしてそれらは、外部の専門家によって進められてきた。

CBDPは、知識、地元住民の許容量により構成され、社会資本を含む地元資源によって成り立つ。強みとして、CBDPは地域防災の策定のみならず、広域な会圧計画と議論などにも役立つ可能性がある。自らの啓蒙活動により、自己強化を図る。一方、弱みとして、コミュニティ資本の欠如

、決定権の不明などがあげられる。

本稿では、コミュニティでの災害に対する意識が気候変動における脆弱性を緩和させることに注目した。しかし、フィリピンのコミュニティ内では住民をエンパワーすることもディスエンパワーする場合が見られた。つまり、CBDPを災害管理問題の万能薬とのように考えることに対して注意喚起をした。

・荒木俊之 (2019)「地域防災計画にみる地域特性に関する一試論―大阪府北大阪地域を事例に―」『 E-journal GEO』14(1),105-115.

この論文では、大阪府北部地域における 7 市の地域防災計画を取り上げて、自然的、社会 経済的な視点からみた地域特性が、予防対策や応急対策などの災害対策、被害想定や対策を 行う想定地震などに考慮され、目次構成や想定災害に示されているかどうかを検討されて いる。 なぜこんなにも地域特性に着目しているのかというと、地域防災計画は、国-都道府県- 市町村の垂直的な関係の中で、各市町村の地域特性などを踏まえて作成されているが、しか しこれまでの研究において地域特性についての言及はないため、実際はどうなのか検討し ようというのである。 本論では、地域防災計画について法的な面から説明したのち、北大阪地域 7 市に焦点を 当て、自然的、社会経済的な視点からみた地域特性について述べ、さらに国が作る防災基本 計画と大阪府の地域防災計画を比較し、考察結果を述べている。 結果から言ってしまうと、地域防災計画の記述の多様性が市区町村の連携を難しくし、市 町村と連携が取れていないために、不十分な地域防災計画が作成されてしまうのだ。この論 文を踏まえて、都道府県が地域防災計画の修正や推進計画の作成の指導を積極的に指導し ていくことが必要だとしている。

 2019/09

・井上雅志ら (2018)「地域防災計画に基づく災害対応フロー図の作成と部署間連携の可視化」『生産研究』70(4), 283-288.

災害対策基本法第 40 条に基づき、都道府県と市町村で は地域防災計画の策定が義務付けられている。地域防災計画は各段階において自治体が実施すべき防災対策が定められている。しかし、地域防災計画の多くは記載事項が膨大なため有事の際、職員が災害対応に必要な情報を即座に探し出すことが困難であり、過去の災害においても有効に活用されていないことが多い。また、災害対応の工程や流れが示されておらず、全体像をとらえにくいという課題もある。さらに、地域防災計画の目次構 成やフォーマットが都道府県と市町村との間で、また市町 村間で異なっている場合が多く、地域防災計画の比較や、自治体間の応援・受援の効率的な実施を困難にしているという指摘がある。

以上を踏まえ本編では、2016年熊本地震の被災自治体である熊本県、熊本市、嘉島町、西原村の4自治体を対象に、地域防災計画の記述から、工程とフロー図を作成し災害対応業務を体系的に整理することで熊本県の地域防災計画を標準化している。さらにこれを効率的に運用するために、業務実施上の参考情報をまとめた詳細シートデータベースを構築している。標準化された工程に対して、各自治体の地域防災計画の記述を比較することで、地域防災計画の記載の不足内容を明らかにした。また、作成された災害対応業務フロー図について部署間の連携関係をネットワークの形で可視化することで、業務における担当部署と部署間の関係を一目で確認できることを示した。今後は訓練等を通じて検証並びに修正を加えていくことが重要であると共に、今回示した災害対応の流れに対し業務の進捗管理を行う方法について検討を行うことが必要だと結論付けた。

   

​・Himes-Cornell, A. Ormond, C, Hoelting, K, Ban, N. C, Zachary Koehn, J, Allison, E. H.& Okey, T. A. (2018). “Factors Affecting Disaster Preparedness, Response, and Recovery Using the Community Capitals Framework” Coastal management, 46(5), 335-358.

 

本稿では、災害やオイルショックなどの大きなショックを受けた時、どのコミュニティ資本が復興促進に影響を与えるかを明らかにした。これまでの災害研究は、「なぜ」「どのように」災害から影響を受けるのかを調査されてきた。そこで本稿では「コミュニティ資本フレームワーク」を用いて、コミュニティの特性がどのように災害準備の意識に影響を与えるのかを1964年から1989年の災害データから分析した。このデータは、災害に対する反応を6つのコミュニティ、災害中と前のコミュニティ資本、長期の復興を記録した情報を含む。

 豊かな自然資本は一般的に、災害前の計画と長期的な回復に寄与するが、災害直後の資源へのアクセスの制限は多くのコミュニティにとって悪影響を及ぼす。強力な政府、社会基盤、財政資本を有するコミュニティは、早急な回復をみせる。しかし石油危機当時、幾つかのコミュニティにおいて、津波や地震よりもコミュニティを弱体化させた。コミュニティ資本の活用が、様々な種類の災害からの回復に導く可能性があると分かった。

 2019/10

 

・藤田勝ら (2003) 「活発な自主防災活動と日常的な地域活動の関連性に関する研究」 『都市計画論文集』 38, 19-24.

 

1995年の阪神・淡路大震災における多大な被害は、震災以前の利便性、快適性を追求してきたまちづくりの脆弱性を明らかにすると同時に、いかに安全・安心して暮らせるかという「安全・安心のまちづくり」の重要性を再認識させた。

本稿では、自主防災活動と日常的な地域活動の関連性から、活発な活動をしている組織の特徴を明らかにし、こうした組織づくりに必要とな る住民の役割や行政の役割、支援の方法などを明らかにすることを目的としている。流れとして、自主防災活動に対する行政の認識や支援の状況を把握した上、活発な活動をしている組織についてヒアリングを行った。これにより活発な組織の特徴を表すと思われる項目を抽出し、これらの成果をふまえ、秋田市を事例として、市内全町内会を対象としたアンケー ト調査を実施した。これより得られたデータを用いて、自主防災活動と地域コミュニティの活性化について、防災活動や防災意識の関係を把握する。

 訓練など活発な自主防災活動を行っている組織の特徴と日々の活動などを調査結果から、①組織間交流会の開催、②より効果的なリーダー養成、 ③組織の運営や活動に役立つ的確な情報提供、④町内会再編等の行政施策の検討と実施、などが自主防災活動活性化の方策として有効であると述べられた。楽しみながら参加できる、施策行う

 2019/11

・上野靖晃ら (2016)「自主防災組織活動の活性化と活動責任者」『土木学会論文集 D3 (土木計画学)』72(1), 14-24.

 

本稿では熊本県内の自主防災組織の代表者にアンケート調査を実施した。対象は、熊本市、阿蘇市、南阿蘇村、計390組織の代表に郵送調査を行った。調査ロジスティック回帰分析や共分散構造分析を用いて、組織活動を構造化し、組織活動を充実させるための適切な組織ガバナンスについて政策的示唆を得ることを目的とする。調査では、組織活動に積極的な主要メンバー数や地域減災活動の実施状況、緊急時の活動責任者の選定、緊急時の活動マニュアル作成、などについて尋ねている。

結果として、主要メンバー数が多い自主防災組織ほど活動責任者を選定していることが示唆された。そして、活動責任者を選定している自主防災組織ほど、地域減災活動を実施し、緊急時の活動マニュアルの作成に意欲的という結果がえられた。

そして研究のくくりとして、マニュアル作成による地域住民への防災の啓蒙につながるのかは、今後明らかにする必要があると述べられた。本稿での問題意識にあったような、地域住民が率先して防災に取り組む、新たな施策が重要あるといわれた。

 

 2019/10

・Yoon, D. K., Kang, J. E., & Brody, S. D. (2016). “A measurement of community disaster resilience in Korea” Journal of Environmental Planning and Management, 59(3), 436-460.

 

自然災害からの復興は、コミュニティーの災害への耐性の許容力が重要であるという認識が高まっている。災害への復興力の構築は減災活動の一つの目標とされる。本稿では韓国の各コミュニティの災害復興力を検証する。韓国では、自然災害により、410億ドル相当の被害と、1万人の死者を超す被害がこの50年に生じた。そこで2015年までに、災害の損失を抑えるため、The Hyogo Framework for Action(HFA)を行動することが求められていた。各コミュニティの復興力向上を実現するために、3つのゴールを定めた。①防災計画の統合と準備、②地域ごとでの、復興力向上の準備、③緊急事態のリスク低減への取り組み、の3つを掲げた。

そして本稿では、人間の観点、社会、経済、環境などの側面を独自の指標を用いて、復興力を測る。調査は229自治体のデータとGeographic Information System(GIS)を使用し分析した。災害復興力の指標は災害による損失の関係から導出した。災害に対するコミュニティの回復力の程度は社会、経済、環境などが災害対策に寄与し、減災に影響するとされた。

 

​2019/12

元吉忠寛 高尾堅司 & 池田三郎 (2004)「 地域防災活動への参加意図を規定する要因」『 心理学研究』75(1), 72-77.

災害発生後の初動期の地域における迅速な救援活動を行うためには日頃からの地域防災活動が必要である。また行 政だけではなく地域の住民が参加・連携し,地域の防災対策を自ら考 え行政計画にいかすことが求められる。そこで本研究では水害の脆弱性の高い地域住民を対象 とした調査によって、地域防災活動への参加意図(以下、行動意図と同義とする)を規定する要因について検討することを目的とする。防災 に対する動機づけを反映する要因として防災に対する興味・関心を取り上げ、主観 的規範、コスト認知、ベ ネフ ィット認知との関連について検討する。合理的行為の理論に防災に対 する興味・関心という要因をとり入れ、モデルを仮定し、地 域防災活動の活性化が必要とされる水害の危険性の高い地域住民を対象 とした調 査により興 味、関 心、コ スト認知、ベ ネフィット認知、主観的規範のそれぞれの要因が地域防災活動の参加意図にどのような影響を与えているかについて検討した。
分析の結果、地域防災活動への参加意図は主観的規範が高い場合に高くなることが明らかになった。本研究の結果は地域防災活動のように、他者が存在している場面で行われる行動については、主観的規範が行動意図の重要な要因となることを示唆している。また家庭における防災対策に対しては、主観的規範が行動意図に与える影響が弱い可能性が指摘できる。防災活動 の種類によって、行動意図の規定プロセスが異なるのであれぼそれに応じた防災対策の促進 を行うことが効果的である。またコスト認知が高い場合には,参 加意図が低くなるという強い影響がある一方で、ベ ネフィット認知から参 加意図への影響は小さかった。災害は低頻度でしか発生しないため、平常時に地域防災活動 に参加することには大きな負担を感じる。地域防災活動を活性化するためには、住民のコス ト認知を低くすることが非常に重要であるといえる。一 方ベネフィット認知からの影響は小さかった。地域防災活動だけでは水害による被害をなくすことはできない。また地域防災活動を行うことによる具体的なベネフィットは分かりにくいため、ベネフィット認知からの影響が小さかった可能性が指摘できる。以上の結果よりコスト認知が地 域防災活動の参加意図に対して大きな影響力を持つ阻害要因であることが示された。したがって危険情報の公開だけではなく、地域防災活動にかかるコストを削減することが今後の重要な課題であろう。水害への興味・関心は合理的行為の理論では扱われていない概念であるが本研究においては、水害に対する興味・関心は行動意図を規定する直接 の要因となっていた。また興味・関心は主観的規範やベネフィット認知を高め、コスト認知を低める要因として位置づけられ、行 動意図への間接的な影響もあった。興味・関心に関する理論的な位置づけについては本 研究の結果からだけでは判断できないが、地域防災活動の行動意図を高める要因の一つとして災害に対する興味 ・関心が重要な要因となることが示された。地域住民の関心が高まるような形で情報提供を行うことによって地域防災活動が活性化する可能性が示唆された。よって本研究では防災活動を地域における自発的な行為として位置づけ、主 観的規範、コスト認知、防災に対する興味 ・関心の三つの要因が地域防災活動への行動意図に影響 を与 えることを明らかにした。

 

 

2019/11

 

・Yen, C. L., Loh, C. H., Chen, L. C., Wei, L. Y., Lee, W. C., & Ho, H. Y. (2006) "Development and implementation of disaster reduction technology in Taiwan" Natural hazards, 37(1-2), 3-21

災害削減の効率を上げるために、1982年から、台湾政府は災害削減に向けての開発の取り組みをたくさんしてきた。この取り組みの中には、危険を回避するための国での科学技術のプログラム(NAPHM)、3期に分けた5年間の危険を回避するための計画などが含まれている。
この論文では、これらの計画や、NAPHMのプログラムについて、手短に評価がなされている。言い換えると、五年間の計画は、意味のある研究結果を生み出したことを示している。そして、NAPHMは、研究結果を統合などして、道具になりうる技術を見つけ出すメカニズムを提供したと言える。
NAPHMは2003年にNCDR(災害削減のための国立科学技術センター)に移り変わり、より一層災害に対する技術の開発と実行が進められている。ここでは、NCDRのミッションと、将来の産物のために目指すものも述べられている。

 

2020/01

・上村麻子, 星岳雄(2019)「災害後の革新と創造: 東日本大震災後の聞き書きから」『経済セミナー』No. 706, pp. 31-34

 

災害は様々なものを破壊し、多くを奪う。しかし、災害後にあたらしく価値あるものが生まれてくるという側面もある。Solnit(2009)が指摘したように、災害後に被災コミュニティが皆助け合って、ある意味で災害前よりも活き活きとした社会が生まれるというのは日本に限らず世界各地で見られる現象だ。本稿ではこのような経済成長を促進するような兆候が東日本自身の被災地で起こっているのかを、定性的に被災者の企業行動に着目して確かめる。

 東日本大震災により甚大な被害を被った中でも、地域住民と協力して、破壊されたコミュニティに再び活気をもたらした。一つの例を挙げると、岩手県の大槌町吉里吉里治勲住む平野氏は東日本大震災で自宅が全壊し母を亡くした。住民主導の災害対策本部では副会長として、がれきに埋もれた街に道路を作り、食料と物資を搬入した。平野氏が数十年来営んできた保険代理店は津波に流されたが、避難所を回って顧客の安否お確認し、2011年5月には保険金の支払業務すべてを終えた。震災後は、保険業の債権だけでなく、復興への思いから、衰退しつつあった漁業の再建にも関わる世になった。大槌町の漁協は震災前から大幅な債務超過に陥っていた。震災はいずれ避けられなかったであろう漁協の破綻を早める結果になり2012年1月に解散した。しかし平野氏をはじめとする組合員の一部が、旧経営陣とは違う新体制で、漁業を復興させようと活動を始め、2012年3月には新たな漁協を復興させた。

 このような災害を経験した後、それを機に地域経済が立ち直る例がある。災害ユートピアは時が来れば消え去ると指摘した。本稿で紹介される事例は災害ユートピアの発生が起業家精神を後押しし、コミュニティの復興に持続的な効果を持つ場合があることを示す。

2019/12

・Tsung-Yi Pan , Lung-Yao Chang , Jihn-Sung Lai , Hsiang-Kuan Chang , Cheng-Shang Lee , Yih-Chi Tan(2014)

"Development and Implementation of Disaster Reduction Technology in Taiwan"

災害削減の効率を上げるために、1982年から、台湾政府は災害削減に向けての開発の取り組みをたくさんしてきた。この取り組みの中には、危険を回避するための国での科学技術のプログラム(NAPHM)、3期に分けた5年間の危険を回避するための計画などが含まれている。
この論文では、これらの計画や、NAPHMのプログラムについて、手短に評価がなされている。言い換えると、五年間の計画は、意味のある研究結果を生み出したことを示している。そして、NAPHMは、研究結果を統合などして、道具になりうる技術を見つけ出すメカニズムを提供したと言える。
NAPHMは2003年にNCDR(災害削減のための国立科学技術センター)に移り変わり、より一層災害に対する技術の開発と実行が進められている。ここでは、NCDRのミッションと、将来の産物のために目指すものも述べられている。

2020/01

・William duPont IV, Ilan Noy, Yoko Okuyama, Yasuyuki Sawada, 2015. "The Long-Run Socio-Economic Consequences of a Large Disaster: The 1995 Earthquake in Kobe," PLOS ONE, Public Library of Science, vol. 10(10), pages 1-17, October.

 本研究では、日本の1,719市区を対象とした30年間の大規模パネルデータを用いて、1995年に発生した阪神・淡路大震災の社会経済への「恒久的」な影響を定量化する。地震が発生しなかった場合の神戸経済を推定するために、synthetic control methodを用いている。その結果、3つの重要な実証パターンが浮かび上がってきた。第一に、神戸の人口規模、特に平均所得水準は、震災がなかった場合に比べて15年以上も低い水準で推移しており、震災の負の影響が恒常的に生じていることを示している。このような負の影響は、特に震源地に近い中心部で見られる。第二に、周辺地域では、地震の短期的な負の影響にもかかわらず、恒久的なプラスの影響がいくつか見られた。その多くは、神戸の東側への人の移動と、その結果として神戸のすぐ東側に位置する大阪の大都市中心部への雇用の移動に関連している。第三に、神戸周辺の最も遠い地域は、地震の直接的・間接的な大きな影響を受けていないように思われる。

2020/02

・滝田真、熊谷良雄「大規模災害時の避難所運営に関する地域防災力評価」『地域安全学会論文集』No.4, 2002. l1

 

この論文では、兵庫県南部地震、有珠山噴火、災害時等の過去の大規模災害時の避難所運営に関する文献・調査報告、および、ヒアリング調査を基に、災害時の避難所の運営状況を把握し、課題を整理している。つぎに、兵庫県南部地震以降、各自治体で取り組まれてきた地域コミュニティおよび避難施設への防災施策等について、既存の文献・資料を基に整理している。そして、それらの結果を基に、評価対象期間を設定し、また、地域コミュニティによる平常時からの事前対策項目などについて分析し、各指標の重要度を設定している。それらを、同一地域内の地域コミュニティと避難施設を対象に実態調査を実施し、活動指標と避難所整備指標の実施状況を把握し、その結果を基に評価している。神戸市の防災福祉コミュニティについて詳しく述べており、南海トラフはもちろん、避難所運営を考える者は一読する価値がある。

・Yoko MATSUDA & Teruyuki KUME, 2012. "NPO Recovery Support for Foreign Residents after the Great Hanshin-Awaji Earthquake: A Case Study of Takatori Community Center in Kobe," Japan Social Innovation Journal, University of Hyogo Institute for Policy Analysis and Social Innovation, vol. 2(1), pages 1-72, April.

 本研究は、阪神・淡路大震災以降、NPO法人高取公民館が地域の外国人住民をどのように支援してきたかを調査する継続的な研究である。これまでに、理事 3 名と職員 1 名にインタビューを行った。その結果、地域に根ざした活動の重要性、複数のリーダーの共同事業、多文化の仲介力などが明らかになった。

2020/03

阪田弘一(2000)「震災時における避難者数推移および避難所選択行動の特性 : 地域防災計画における避難所の計画に関する研究」

 本研究において、震災時の避難者行動に関して明らかになったことは以下の通りだ。避難者数推移特性について調査対象とした地震における避難者数の推移はどれも指数的な減少傾向を示すことがわかった。次に地震発生当初からの避難者数の推移は、避難者の減少には、建物被害の程度やライフラインの復旧速度が影響を及ぼす要因であることが示唆された。
避難所選択行動特性については避難者の避難所選択行動の傾向は距離と施設魅力度を要因とする代表的な施設選択行動モデルであるハフモ デルによるモデル式で説明できることがわかっ た。モデル 式のパラメーター値から、避難所選択行動においては距離が非常に大きな影響を及ぼす要因であるとわかった。避難者の避難所としての 施設に対する嗜好の程度を表す指標として、避難所の敷地面積が有効であることがわかっ た。ただし、避難所選択行動につい ての結果は、阪神 ・淡路大震災の大規模火災の発生しなかった地域におけるデータのみから導かれたものであり、避難所選択行動の特性がハフモデルにより説明されることが一般性を持ちうるのかを論じるに当たっては、他の震災時におけるデータによる追試が必要だ。

・Eiji Yamamura, 2013. "Natural disasters and social capital formation: The impact of the Great Hanshin-Awaji earthquake," EERI Research Paper Series EERI RP 2013/10, Economics and Econometrics Research Institute (EERI), Brussels.

​ 1995年に発生した阪神・淡路大震災は、日本の中南部の経済に壊滅的な被害をもたらし、この震災が、日本の社会資本の重要性を改めて認識させるきっかけとなった。本研究では、488,223件の観測からなる大規模な個人レベルのデータベースを用いて、震災が地域活動への参加を通じた社会資本への投資をどのように、またどの程度高めたのかを調査した。差分法を用いた結果、以下のような重要な知見が得られた。(1)日本では、1996年の方が1991年よりもソーシャルキャピタルへの投資傾向が強いこと、(2)震災の影響は居住地からの距離が遠くなるほど減少すること、(3)震災は神戸市民のソーシャルキャピタル投資率を有意に上昇させたが、神戸に近い大都市の投資率には有意な影響を与えなかったこと、などが明らかになった。

 書籍リスト(感想付)

   

    2019/02

・風化させてはいけない記憶がある ―3.11東日本大震災 宮城県建設業界の闘い― 

​ この本では多くの写真を通して当時の東日本大震災の様子や、そこからがれき処理などの復興への過程を知ることが出来る。東日本大震災は発生から8年が経とうとしているが、いまだに完全に立ち直ったとは言えない状態が続いている。本の構成として、震災発生当日から二週間後までを見ることができ、町の変化が鮮明に記録されている。また終わりには、宮城県建設業協会専務理事の千葉氏が建設業界から見た視点で、これから直面すると思われる課題について語っており大変有意義なものである。掲載されている写真の中でも『船にアンカーを打ち港内で対応』という見出しのついた写真は衝撃的だった。避難者が津波から逃れ高台に避難している写真である。道があった場所には太平洋から流れ込んできた波がすべてを破壊し、町を濁流の中に飲み込んでいた。その他にもコンクリート道路が板チョコレートのように折れて粉々になっている写真や、堤防のコンクリートが剥がれて、土の壁になっている写真も見ていて胸が痛くなった。みなさんにも記憶を風化させないために是非とも読んでいただきたい一冊である。

     2019/03

 ・阪神・淡路大震災に学ぶ[情報・報道・ボランティア]/ 池田謙一

 この本は1998年の8月に発行されたものだが、約20年経った今でも来たる南海トラフ巨大地震に備えて一読する価値のある本だといえる。情報や報道、ボランティア、そして災害時のパニックを通した心理学的側面な多角的な分析がなされている。その中でも特にパニックを通した心理学とボランティア活動の考え方に関してはとても興味深い内容であった。前者で衝撃を受けたのは、災害時の人々の行動として想像されやすいパニック状態に陥ってしまうというのはあまり確認されない事象だということである。どちらかと言えば、視野狭窄による行動制限が引き起こす合理性の欠如のほうが正しいということだ。それも必ず負の影響を与えるわけではなく、視野が狭まってるからこそ人命救助を即座に行うことが可能であったり、経験に基づく円滑な避難行動を取ることができる。後者のボランティアの話では、ボランティアの単純な労働リソースというだけではなく、自己責任で引き受けたボランティア活動が人を育てるのだ。この他にも、もちろんマスメディアに関する情報の分野も素晴らしいのでこの本を取ることを切に希望する。

 2019/04

・『地震と津波 -メカニズムと備え』(2012)日本科学者会議 / 比留川 洋 / 本の泉社

      

  著者は自然に『想定外』の事態などというものは存在しないと言い切っている。過去の経験や理論をもとに、ありとあらゆる問題、東日本大震災の巨大津波や福島原発事故も減災できたり事前に防げたことなのである。今回の東日本大震災で学んだこと、例えば震動継続時間が長く、それによって従来では生じられないと考えられてた深度での液状化、超高層ビルや石油タンクなどへの被害などについても書かれており、今後行政機関が取るべき行動が考慮すべきことが分かる。また地震と津波について基本メカニズムから詳しく説明しており、ふわふわとしたイメージしか持っていなかった人はこれを読むことによって論理的思考を身につけることができる。是非とも本書を通して、将来起きうる災害に備えてほしい。

   2019/05

・『叢書 震災と社会 南海トラフ巨大地震―歴史・科学・社会』(2014) 石橋克彦 / 岩波書店

 南海トラフ巨大地震、最近では政府の予想は根拠に準じていないなど様々な意見がでているが、備えるに越したことはない事柄であり、実際に起こってしまえば、阪神淡路大震災をもこえうる被害が予想される。本書では、最善の地震対策を地球規模で無際限に依存することを良しとする日本の社会経済構造を根本的に変革することだとしたうえで、さまざまなデータをもとに地震の規模、また発生する被害の大きさを予想し、様々な基準やルールに対して警鐘を鳴らしている。関西の神戸や西宮で重点を置いて活動している我々防災班としても今後の活動に活かせる内容であった。

   2019/06

・『巨大地震・巨大津波―東日本大地震の検証―』(2011) 平田直・佐竹健治・目黒公郎・畑村洋太郎 / 朝倉書店

 タイトルからも分かる通りに、本書は2011年の3月に起きた東日本大震災についてフォーカスして書かれた内容であり、筆者の皆様はいずれも災害に関するエキスパートであるために非常に勉強になった一冊である。第一章、第二章ではそれぞれ今回の巨大地震と巨大津波がどのようにして起きたのかが分かる内容になっている。第三章では避難方法の違いによる被害の差について言及しており、第四章では著者の痛烈な思いが多くの画像データとともに書かれている。なかでも第三章の『避難行動の違いによる犠牲者数の変化』では、避難3原則である「①想定にとらわれない、②状況下において最善をつくす、③率先避難者になる」を達成することのできた柔軟な組織や人々が助かっており、どうすればこのような人材を育成することができるかを考える必要がある。

  2019/10

​・防災科学技術研究所 元吉忠寛・高尾堅司・筑波大学 池田三郎 

『地域防災活動への参加意図を規定する要因―水害被災地域における検討―』(2004)

災害発生後の初動期の地域における迅速な救援活動を行うためには日頃からの地域防災活動が必要である。また行 政だけではなく地域の住民が参加・連携し,地域の防災対策を自ら考 え行政計画にいかすことが求められる。そこで本研究では水害の脆弱性の高い地域住民を対象 とした調査によって、地域防災活動への参加意図(以下、行動意図と同義とする)を規定する要因について検討することを目的とする。防災 に対する動機づけを反映する要因として防災に対する興味・関心を取り上げ、主観 的規範、コスト認知、ベ ネフ ィット認知との関連について検討する。合理的行為の理論に防災に対 する興味・関心という要因をとり入れ、モデルを仮定し、地 域防災活動の活性化が必要とされる水害の危険性の高い地域住民を対象 とした調 査により興 味、関 心、コ スト認知、ベ ネフィット認知、主観的規範のそれぞれの要因が地域防災活動の参加意図にどのような影響を与えているかについて検討した。
分析の結果、地域防災活動への参加意図は主観的規範が高い場合に高くなることが明らかになった。本研究の結果は地域防災活動のように、他者が存在している場面で行われる行動については、主観的規範が行動意図の重要な要因となることを示唆している。また家庭における防災対策に対しては、主観的規範が行動意図に与える影響が弱い可能性が指摘できる。防災活動 の種類によって、行動意図の規定プロセスが異なるのであれぼそれに応じた防災対策の促進 を行うことが効果的である。またコスト認知が高い場合には,参 加意図が低くなるという強い影響がある一方で、ベ ネフィット認知から参 加意図への影響は小さかった。災害は低頻度でしか発生しないため、平常時に地域防災活動 に参加することには大きな負担を感じる。地域防災活動を活性化するためには、住民のコス ト認知を低くすることが非常に重要であるといえる。一 方ベネフィット認知からの影響は小さかった。地域防災活動だけでは水害による被害をなくすことはできない。また地域防災活動を行うことによる具体的なベネフィットは分かりにくいため、ベネフィット認知からの影響が小さかった可能性が指摘できる。以上の結果よりコスト認知が地 域防災活動の参加意図に対して大きな影響力を持つ阻害要因であることが示された。したがって危険情報の公開だけではなく、地域防災活動にかかるコストを削減することが今後の重要な課題であろう。水害への興味・関心は合理的行為の理論では扱われていない概念であるが本研究においては、水害に対する興味・関心は行動意図を規定する直接 の要因となっていた。また興味・関心は主観的規範やベネフィット認知を高め、コスト認知を低める要因として位置づけられ、行 動意図への間接的な影響もあった。興味・関心に関する理論的な位置づけについては本 研究の結果からだけでは判断できないが、地域防災活動の行動意図を高める要因の一つとして災害に対する興味 ・関心が重要な要因となることが示された。地域住民の関心が高まるような形で情報提供を行うことによって地域防災活動が活性化する可能性が示唆された。よって本研究では防災活動を地域における自発的な行為として位置づけ、主 観的規範、コスト認知、防災に対する興味 ・関心の三つの要因が地域防災活動への行動意図に影響 を与 えることを明らかにした。

 


 

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