11月日本語論文【協働学習が学習意欲に及ぼす影響】
滝口耕平、藤田剛志(2018)「協働学習が理科の学習意欲に及ぼす影響に関する実践的研究」『千葉大学教育学部研究紀要』 第 66 巻 第 2 号 337~346 頁
<要約>
この研究は,生徒の主体的な学びを促すための学習指導法として注目されてきた協働学習が理科の学習意欲に及ぼす影響について,高等学校での理科の授業実践を通して考察したものである。平成15年の中央教育審議会において,「これからの生涯学習社会においては,生涯を通じて主体的に学び続けることができる学習意欲を持つことが重要であり,(中略)子どもたちの学習意欲を高めることが,確かな学力をはぐくむ上でとりわけ重要な視点である」と述べられた。しかしながら、PISA等の国際比較調査の結果から,現在日本において学習意欲に問題がある事が分かっている。先行研究から協働学習が学習意欲に影響を及ぼす事がわかっているため、この研究はそこに着目した。文部科学省の教育の情報化ビジョンに基づき,協働学習を子どもたち同士が教え合い学び合う協働的な学びと定義している。
大きく2つの調査をおこなっており、一つは千葉県の高等学校の理科主任教員を対象とした理科の授業の学習形態調査、もう一つは千葉県の公立高等学校において、協働学習の要素を導入した実験群と,導入しない対照群を設定した上での検証授業の実施である。
一つ目の調査では,年間の理科の授業の約 8 割が知識伝達を主たる目的とする 一斉の学習指導が行われていること。他者との協働による学びはほとんど実践されていないことが明らかになった。
二つ目の調査では検証授業の前後に理科の学習意欲を測定したところ,協働学習の要素を取り入れた実験群では学習意欲の下位概念である有能感や挑戦の平均得点が上昇した。このことから,有能感と挑戦の二つの要因が高校生の主体的な学修態度に影響を及ぼすことが示唆された。
<感想>
協働学習が学習意欲に対して正の影響を及ぼすというのは、直感的に想像できるが、それを実証的に示したという点において、この研究は意義のあるものだと言えるだろう。しかしながら、なぜ国語や数学などではなく理科に着目したのかについてはいささか疑問も残る。本文中「はじめに」において日本の学習意欲が諸外国と比較した時に問題があることを述べた後、「理科においても学習に対する積極性が乏しい等、学習意欲が十分ではないことが指摘された」とあり、その後理科の授業に着目したこの研究が紹介されている。なぜ理科なのか?その理由や研究背景が気になった。また、国語や数学などその他の教科においてはどうなのかも今後研究してもらいたい。それから、二つ目の実験において実験群と対照群についてはそのクラスが元から持っている特性(例えば既に学習意欲が高い生徒が多いなど)が考慮されているのかも、本文中では明記されていなかったため、効果測定をおこなう論文を執筆した経験から少々気になった。
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