【要約】
本書では社会学を通じて認知症の家族介護の研究をしてきた筆者の大下さんの主張がまとめられている。大下さんは認知症高齢者を家族が介護するべきという議論に反対の立場をとってきた。大下さんの調査に協力した介護家族も同様の考えを持っている。しかし介護家族は介護保険サービスを利用しながらも何らかの形で介護を担っている。そこで「家族はなぜ介護してしまうのか」というテーマを設定している。この本では介護家族はなぜ大変なのか、その原因は何かという基本的なことから学ぶことができる。それだけでなく現在の家族介護の現状と問題点も取り上げている。本書では複数の具体的な事例を取り上げているため介護にかかわるたくさんの人が読みやすくなっている。
【感想】
これまでの研究では「家族がなぜ介護をしてしまうのか」というテーマに対して遺産や介護保険制度、家族規範などが注目されてきた。私たちのゼミの読書会でよく登場する上野千鶴子さんは介護の社会化が進み、介護保険制度を最大限利用した場合でも家族に重要な責任がついて回ることを指摘している。本書では具体的な調査から「新しい認知症ケア時代」において介護家族が「代替不可能な人間関係」として評価されることを挙げている。このことは認知症の家族介護者に限らず、高齢者や障害者など介護が必要な人たちには広くあてはまるのではないだろうか。そのことを先日行ったグローバルウォークさんでのインターンで強く感じた。例えば透析室に行くおばあちゃんをおじいちゃんが玄関前まで車いすを押していた。またデイケアに行くおばあちゃんを60代ぐらいの女性が介護していた。現在ではどれほど介護サービスを利用しても家族がは必ずかかわらなければならないことを肌で感じた時だった。そのことや本書からわかるように認知症の介護家族などが介護と無関係であることは不可能ではないだろうか。そのため介護家族一人一人に向き合ったサービスの必要性を感じた。例えばグローバルウォークさんの介護タクシーはその一つだと思う。実際に緊急でタクシーを利用したい方が電話をかけてきた際には、0秒で引き受けることを決め、すぐに現場へと向かった。そこには困ってきているからこそ電話をかけてきているのであり、その人を助けたいという思いがあった。このようなサービスがこれから広く広がっていってほしいと思った。この本は認知症介護家族だけでなく広く様々な方に読んでほしい。
長瀬亘亮(2022年6月29日)
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