石川路子(2016) 「わが国における障害者雇用分析に関する一考察」『甲南経済学論集56(1・2)』 項19-39
障害者の雇用に際して、障害者雇用促進法が施されたことで働く障害者が増えたが、民間企業における障害者の雇用率が伸び悩んでいるのが現状である。
結論から述べると、石川(2016)は「日本国内において障害者雇用を扱った先行研究は多数存在するが、 そのうちのほとんどが既存制度の評価に関わる研究にとどまる」と指摘する。
続けて石川(2016)は、「障害者雇用率制度、 障害者雇用納付金制度という既存の制度の有効性を検証するものが多く、雇用障害者の雇用率、 賃金水準の分析を扱った研究は筆者の知る限り存在しない。」と述べる。私たちが今回、障害者雇用研究を行ったのは2020年の秋である。石川(2016)の論文から4年すぎたのにも関わらず、先行研究は十分にあるとは言えず、かつ論文発行年が数年前のものが多かった。障害者雇用に関する法律や制度は2、3年で変わるというのに、論文がまばらであ流ように感じた。石川(2016)も述べるように、そのときの制度の有効性を調査するだけでは障害者雇用に関する研究は不十分であると、私も論文を執筆しながら感じた。
また石川(2016)では、国内の先行研究同様、海外の先行研究も記されていた。(私が特に面白いと思ったのは、Malo et al(2012)だ。次回、この論文を読んでみようと思う。) 石川(2016)がピックアップした海外の先行研究は主に「雇用障害者の低い賃金水準がその生産性のみによって説明されるのではなく、 企業の先入観など 「障害がある」 という雇用者の特性から生まれる差別に起因している可能性を指摘し、 それを定量的に分析することを試みている」。先入観や偏見という、一見定量的には表しにくいような人の考えを分析に組み込むという姿勢に脱帽だ。そして、実際に差別が存在すると結果付ける論文もあるのが現状だ。
石川(2016)に書かれている最後の文に注目したい。
「社会の偏見を取り除くことも重要であるが、 各人の生産性を伸ばすような十分な機会が与えられ、 その生産性に見合った賃金を受け取れるような社会システムの構築が今後必要であろう。」
もう2021年である。今、この社会は普遍的な考えの脆さや、社会の欺瞞に気づき再構築を迫られているのではないだろうか。(2021年2月 橘知里)
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