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在宅ALS患者の身体介護の困難性―ホームヘルパーの介護経験からー

執筆者の写真: 介護班 栗田ゼミ介護班 栗田ゼミ

西田美紀、”在宅ALS患者の身体介護の困難性”コア・エシックス9(2013) 199頁から210頁


この論文ではホームヘルパー(以下、ヘルパー)の筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)も身体介護に終点を当て、ALSが急速に進行することによる介護の困難性を明らかにしている。これまでの論文ではALS患者の在宅移行支援や制度的な問題点が明らかにされてきた。しかし制度的な問題点が成立したところでヘルパーとの生活が構築されなければ在宅生活は成立しない。そこでこの論文ではALSの身体介護の困難性がどのようにして発生するのか研究している。


ALSは筋萎縮、筋力低下を伴う進行性の難病だ。手足や発声、呼吸に関する筋力が衰えるがコミュニケーションツールによって意思疎通をとることが可能だ。また1990年代から在宅人工呼吸器が普及したことによって在宅生活を行うALS患者も増えてきた。しかし人工呼吸器装備率は3割程度が現状であり、そのほとんどが家族介護によって成立している。在宅独立ALS患者は全国において極めて少ないのだ。そのためヘルパーとの生活構築は重要な問題なのである。


研究結果として大きく3つの身体介護のの困難性を挙げている。

1つ目が様々な補助具に対してALS患者1人1人異なる微調整をしなければならないことである。ALS患者が求める手足の位置やトイレの姿勢、ベットの角度などは個々で異なるため、介護において覚えることが多くなる。そのためALS患者と意思を共有するため試行錯誤も増え、困難性も高まるのである。

2つ目は病状の進行にによって身体の変化が予測できないことだ。ALSの病状は急速に進行するため患者本人も予測できない体の変化が存在する。そのため日々変化する要求に対応するのが難しい。身体介護には当事者がヘルパーに指示を出し、それを受けて介護するのが普通だ。しかし病状が日々変化する中で当事者本人も理解できないため指示が曖昧になってしまうのだ。そのため意思の共有が難しくなり、困難性が高まるのである。

3つ目は上記の問題によって発生する関係性の悪化だ。病状が進むにつれて当事者本人が求めるニーズがヘルパーに伝わりづらくなり、意思疎通が難しくなる。ALS患者に身体的苦痛や精神的負担が増加し、ヘルパーの介護を拒否してしまうようになるのである。


この結果の対処方法としてヘルパーの研修体制や引き継ぎノートなどの活用によって困難性を共有していくことを挙げている。しかし病状の進行によって試行錯誤は続いていく。その生活の中で当事者とヘルパーが妥協できる関係性を構築していくことが大切だと西田は指摘する。日々の生活を紡いでいくために変化していく介護に対応しつつ、よい関係性も再構築していくべきであると述べている。


私はこの問題に対して具体的な解決策はまだまだ考えていくべきだと感じた。この論文では具体的な解決方法については述べられていない。確かにALS患者の介護は困難だと思う。私は1人の方のプールという限定された場所によって介護補助を行っているため成立している。しかしヘルパーのように複数の介護を仕事として掛け持つ場合、その困難性は計り知れない。そのため社会的に介護職の困難性を共有し、給与面などでサポートしていくことが大切なのではないかと感じた。またALS患者が介護を受けやすい環境を整えていくことも求められていると思った。

(長瀬亘亮2021年10月)

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