守屋貴司 (2017) 「新しい体験型企業研修の効果とその可能性: ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン (Dialog in the Dark Japan) を事例として」立命館経営学= The Ritsumeikan business review: the bimonthly journal of Ritsumeikan University、 56(2)、 25-41
まず、守屋(2017)で述べられていることを簡単にまとめる。
日本企業ではOJT(職場内訓練)やoff JT(企業外訓練)などの企業研修が行われており、グローバル化が進む中で刻一刻と変化する環境に対応すべく、座学研修、講義型研修、対話・体験型研修、e ラーニングなど、多様に行われている。その中でもダイアログインザダーク体験型に当たる。
ダイアログインザダークは、参加者が完全に光を遮断した空間にグループを組んで入り、暗闇のエキスパートである視覚障がい者に導かれて、まったく暗闇の中を歩き、様々な体験することを通して、人種、国籍、宗教を超えた共通体験をすることでき、参加者に新しい気づきと心の垣根を越えたコミュニケーションといった新感覚を与え続ける。
ダイアログインザダークは1988年に、ドイツの哲学博士のアンドレアス・ハイネッケ(Andreas Heinecke)の発案によって誕生したもので、すでに、これまで世界 39 カ国以上で開催され、800 万人を超える人々が体験したまったく新しい参加型のソーシャル・エンターティメントである。
今まで行われたダイアログインザダークの参与実験では、医療従事者が暗闇体験を通して、他者を深く理解したり、助け合うといった行動が自然に起こることに気づくことで、実社会での看護の現場において「自分と他者との関係性」や「自身の根源的欲求」などを発見することが明らかにされている。
ダイアログインザダークの企業研修を通して「コミュニケーションの向上」、「チームビルディング」、「ダイバシティマネジメント推進」はとても新鮮でかつ有効であると思われる。
ではなぜ暗闇の中でわざわざ「ダイアローグ」つまり「対話」をしなければならないのか。
守屋(2017)は中原淳・長岡健(2009)を例に出し、「最近の組織学習や社会学の研究では、
人間が物事への理解を深めたり、理念やビジョンを共有したりする有効なアプローチとして『対話』(ダイアローグ)注目され始めて」いると指摘している。
さらに、 物理学者であり思想家でもあるボームによると、「ダイアローグはディスカッションとは全く異なりダイアローグでは勝利者はおらず全員が得をするものである」と指摘している。
ダイアローグの方法として、参加意識、このダイアローグが必要で大切なものであるという意識とダイアローグを受け入れる受容感覚が大切であるとボームは説いている。
真暗闇という不安定な特殊状況の中で、その参加メンバーは、必然的に、寄り添いあい、相互間の受容性を高める傾向があり、ボームの言うダイアローグの条件をつくりだしている。
では、実際ダイアログインザダークに参加して、参加者の前後で変わる気持ちなどはどう図るのだろうか。続いては、ダイアログインザダークの効果測定について言及していく。
ダイアログインザダークの測定は、例えば、2014年5月23日のビジネス・ワークショップのデモンストレーション体験参加者25名に対しておこなわれた「EQ 測定の調査」がある。EQ 測定の EQ(Emotional Intelligence Quotient)とは「情動知能指数」と呼ばれるもので、1995 年に、Goleman らによって提唱されたものであり、広く社会に認知された情動の能力を示す知能指数となっている。志村(2014)による測定ではダイアログインザダークの前後でEQテストをオンライン上で行った。EQ 測定項目はかなり多く、各自でチェックするのをお勧めする。その質問項目より因子分析を行う。志村(2014)の調査では、自己対応、対人対応、状況対応のいずれの因子においても大きな上昇を示し、職務におけるいずれの因子においても適応性を高めておいる。一回だけの参加でも非常に大きな効果が見られている。
ここからは私の感想や思いを書いていく。
「障害」を体験して学習するということは、他者の立場になって考えることが可能になり、自分の「あたりまえ」を壊すいい経験になるだろう。守屋(2017)は論文の最後に実際んい自分がダイアログインザダークに参加したときのことを書いている。「声のイメージ」でその人の印象がついたり、「私の掌の大きさ」という例えも暗闇の中では曖昧な例えだということに気づいたらしい。私自身、次の障害者介護班のイベントでダイアログインザダークの開催を考えているため、大変勉強になった。私もダイアログインザダークジャパンが主宰するイベントに参加して学びたいと思う。最後に守屋(2017)は「ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験型企業研修の優れた点は,「経験→内省→概念化→実践」のプロセスをしっかりもっている点がある」と述べる。次回のイベントでも是非ここの肝に考えたい。
(2021,12 橘知里)
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