伊藤亜紗(2016)『目の見えないアスリートの身体論 なぜ視覚なしでプレイできるのか』 潮出版社
この本では視覚に障がいのある一流スポーツ選手らが、どのようにしてそれぞれの競技に取り組んでいるのかが詳しく記載してある。目の見える人からすると想像もつかないような脳内環境が、彼ら視覚障がいのアスリートにはある。あなたが生まれつき目が見えないとしよう。サッカー、水泳、陸上、これらポピュラーなスポーツはどれも「視覚」からの情報が非常に大切となるスポーツである。もし「視覚」から得られる情報がゼロの状態で、あなたはこれらのスポーツを行うことができるのだろうか?想像するだけでも困難を感じるのではないだろうか。私もこの本を読んで、改めて障がい者スポーツについて考えさせられることとなった。普段何気なく見ているパラリンピックのスポーツ競技も、この本を読んでから見るのとでは、全く違う視点から観れるのではないだろうか。視覚に障がいのあるアスリートがどのようにして脳内で自分の置かれている状況を整理し、競技に励んでいるのかがわかることは、パラリンピックなどの障がい者スポーツを見る人々にとって、これまでとは一味違った面白さをもたらすと感じた。
また、本書を読んで私が印象に残ったのは、視覚障がいのある人は「視覚」からの情報がない分、それ以外の部分が他の人よりも優れていることがあるということである。人間は「視覚」からの情報が一切手に入らない状況になると、聴覚をはじめとした他の感覚器官がより敏感になるということは、おそらく一度は聞いたことがあるだろう。視覚障がいのあるアスリートたちも同様で、彼らは目が見えないがために、それ以外の体の部分を駆使して、最高のパフォーマンスを発揮しようと取り組んでいる。私はこうした内容を踏まえて、人間にはまだまだ知られていないような隠された可能性があるのだと、強く感じることができた。目の見えないアスリートたちがテレビで活躍しているのを見ると、私は今後「人間に限界はない」、と感じることができると思う。視覚障がい者のスポーツの世界を知りたい方や、障がい者スポーツを見る際の新たな視点に興味のある方に、ぜひともおすすめしたい一冊である。
(米島誠2021年12月)
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