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経済学から見た障害者雇用納付金・ 調整金制度

執筆者の写真: 介護班 栗田ゼミ介護班 栗田ゼミ

土橋俊寛、尾山大輔(2008)「経済学から見た障害者雇用納付金・調整金制度」『日本労働研究雑誌9月』 578巻号 43頁から52頁



この論文では「障害者雇用率制度」および「(障害者雇用)納付金・調整金」について経済学の視点から分析している。(いわゆる、経済の理論論文の立ち位置である。)以下は、「障害者雇用促進法」を図式化したものだ。これは、2020年度に私が作成したものである。この「障害者雇用促進法」の中に、「障害者雇用率制度」「(障害者雇用)納付金・調整金」が含まれているのが確認できる。





「障害者雇用率制度」とは、一般労働者と同じ水準において常用労働者となり得る機会を与えることを目的としている。つまり、企業はある一定割合の障害者を雇用しなければならないということだ。

「納付金・調整金」についても説明する。障害者雇用率未達成の事業主に課されるものが「納付金」であり、障害者雇用率達成の事業主に支給されるものが「調整金」である。


これらを簡単に説明すると、ある一定の割合で障害者を雇用していなければ支払わなければいけない懲罰金(納付金)であり、逆に、ある一定の割合で障害者を雇用している場合は報酬金(調整金)がもらえると言うことだ。


企業が障害者を雇用する場合、障害者への配慮が必要となる、例えば身体障害者であればスロープを設置したり、介助者の配置などで、これは企業負担となる。そのため、障害者雇用を促進するためには政策上何らかの補助が必要である。

納付金・調整金の役割は、企業が障害者を雇用するうえでの経済的負担を解消したり、非雇用企業と雇用企業の経済負担を調整したりすることである。



彼らは論文で、現行の法廷雇用率が、どの企業も一律に1.8%になっていることが問題だと述べる。また、納付金は一人につき5万円、調整金は一人につき2.7万円であり、企業の経済的負担をカバーし切れる金額ではないと指摘する。(この値は、論文が書かれた時の者である。)


そして、「社会的にみれば一律雇用率は資源の無駄使いを発生させて社会厚生を損なうという意味で非効率的である」と指摘。これは経済学用語を使った説明であるので簡単に説明する。例えば、職種において障害者を雇用しやすい企業とそうでない企業が存在する。しかし現状の法律では、どの企業も同じパーセントで障害者雇用をしなければならない。そこに疑問を呈しているのだ。また、納付金・調整金を有効に活用することで、より効率的(この「効率」は経済学の専門用語であり、決して障害者雇用を効率で考えているわけではない。)


そして、経済理論分析を行うことで、彼らは1.8%と一律に設定するには社会的非効率があるとした。障害者を雇用する場合に、追加的費用が少ない企業がさらに多くの障害者雇用を行うべきだと論じた。


また、各企業に自社の費用構造を申告させて一気に適正な雇用納付金や雇用調整金の額を定めたい場合は、虚偽申告を行わないようなメカニズムを設計する必要がある。このポイントにおいて彼らは、企業が自社の費用構造を明確に提示する場合と、しない場合で納付金・調整金制度を設計している。しかしながら、これは地域レベルで達成できることだと結論づけている。

また、雇用者の特性や職種と障害者とのマッチングは重要な問題になってくると述べる。今回は経済学的に分析した理論論文であるため、今回が職種や選好などは取り入れて分析していない。


この論文では、決して「障害者を雇用ができる資金がある企業だけが障害者を雇用すればいい」と言っているのではない。あくまでも「どうしたら障害者雇用が促進されるのか」という疑問からスタートしている。社会制度的に変わらないと、現実の細部まで変えることは難しい。


2008年に書かれたものであるが、2021年現在も一律雇用体制は変わっていない。国全体で考えると、実行するには難しいのだろう。日本の法定雇用率は現在2.3%であるが、先進国の中でも低い値となっている。

どのような社会設計がより適切なのか、これからも研究を続ける必要があると感じる。








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