長江亮 (2014)「障害者雇用と生産性」『日本労働研究雑誌』項646
この論文では、日本における障害者雇用施策の有効性を確認するために、「民間企業の法定雇用率の達成の可否」と「企業パフォーマンス」がどのように関係しているのか実証研究を行っている。ここでの企業パフォーマンスとは企業利潤である。利潤の詳細は本論文の(1)式を参照いただきたい。同時に、障害者雇用施策の有効性も検討している。
日本などの先進国において、障害者試作は大きく分けて「雇用施策」と「所得保障」に分けられる。特に前者は中心的な役割を担うと期待されている。さらに、「雇用施策」においては「差別禁止法」と「雇用率・納付金制度」から成る。「差別禁止法」において、企業はいわゆる「合理的配慮」を求められる。しかし、この合理的配慮は企業側に自費である。
障害者雇用制度のもと、企業はある一定数の従業員を雇っている場合、決まった割合以上の障害者を雇用しなければならない。これを法定雇用率という。次に、「雇用率・納付金制度」は社会的弱者である障害者を守る役割をはたす。
分析結果は、法定雇用率を達成した企業の企業利潤は、未達成となった企業と比較して、企業パフォーマンスが低いことが検証された。また、この期間に実施された精神障害者が雇用率のカウント対象となった影響は検出されなかった。さらに、法定雇用率達成の可否が企業の生産性に影響していないことを確認した。そのため、障害者雇用施策では、企業負担の均等化を目的とした施策の強化を実施すべきであると結論づける。今回の分析は上場企業の大企業のみであり、障害者雇用に力を割くことのできる基礎体力のある企業のみが雇用を伸ばしてきている。民間部門における雇用の二極化を避けるべく、長江は「金銭的なインセンティブ」設計が効果的だと示唆する。
しかし、本当に金銭的インセンティブを設けるだけで障害者雇用の低迷が解消できるのだろうか。また、一つ一つの企業に対し、適切なインセンティブを設計することはどこまで可能なのかは触れられていない。あくまでも大企業のデータを元にした分析であるので、今後は中小企業に対しても同様の分析が必要に成るだろう。
(橘知里2021年8月)
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