文責:坂田 成優
アジア開発銀行(ADB)が職員を総動員してまとめた、戦後アジアの経済発展メカニズムに関する包括的な報告書をレビューする。産業構造変化・工業化・対外的な経済開放など、経済発展に置いて標準的なトピックでだけでなく、気候変動・ジェンダーなどの幅広いトピックを扱っている。ADBのウェブサイトから無料でダウンロード出来るので、ぜひチェックしてみてほしい。
【要約】
第一に、本書はアジアの急速な変容を、NIEsと東南アジアの数カ国(インドネシア、マレーシア、タイ)を超えて、戦後間もない時期から現在までの時間軸で概観し、中央集権的な制度から市場志向の改革への移行と、中華人民共和国、インド、カンボジア、ラオス人民民主共和国、ベトナム、中央アジアの国々の力強い成長を捉える。バングラデシュやフィリピンなど、多くのアジアの途上国が2000年代以降、成長の勢いを増している。アジアの発展途上国は、2008-2009年の世界金融危機後も、NIEsを除くと年率6%程度の成長(12年間で所得が2倍になることを意味する)を維持している。第二に、本書は、アジアと世界の新たな課題と新しいトレンドをレビューしている。気候変動、海洋の健康、人口の高齢化などの課題や、アジア金融危機や世界金融危機への対応を論じている。また、グローバルなバリューチェーンの影響、人工知能などの新技術、新たなサービスの重要性と多様性の増大についても分析している。第三に、本書の執筆には、アジア、北米、欧州の幅広い加盟国から多くのADBスタッフが参加し、各国の経験を深く理解し、バランスのとれた見解を示したことである。また、保健、教育、ジェンダー、農業、エネルギー、輸送、水、環境・気候、地域協力・統合の各章には、業務に携わるスタッフが貢献した。
【感想】
多くの人が21世紀は「アジアの世紀」だと主張している。アジアの成功と経済的地位の向上に励まされている一方で、私はこの考えにはいくつかの懸念を持っている。アジアは世界の人口の半分以上を占めているのだから、2050年にアジアのGDPが世界のGDPの半分を超えても不思議ではない。そして未だにアジアの発展途上国は、持続的な貧困、所得格差の拡大、ジェンダー格差の拡大、環境悪化、気候変動(太平洋島嶼国に深刻な影響を与えている)、保健・教育、電力、安全な飲料水へのアクセスが未だに不十分なことなど、多くの課題に直面している。それゆえに現状に満足している余裕はない。
過去50年間、この地域は一部の国で戦争や紛争があった時期を除き、ほぼ平和であった。そして平和と安定は、アジアの経済的成功の基礎となった。各国は、アジアとその先の友好関係を促進し、協力を強化するために最大限の努力を続けなければならない。アジアの経験と革新は刺激的であったが、アジアが過去5世紀に渡って西洋が行ってきたような影響力を持つようになるには、もう少し時間がかかるであろう。アジアは、制度の強化、科学技術の発展への貢献、地球規模の問題への取り組みへの責任、そして自らの考えを明確にする努力を続けていかなければならない。アジアが果たす役割が大きくなることで、より包括的で、統合された、豊かなグローバル・コミュニティが実現することを願っている。
【参考文献】
Asian Development Bank (2020) Asia's Journey to Prosperity:Policy, Market, and Technology over 50 Years. (https://www.adb.org/publications/asias-journey-to-prosperity)
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