本稿著者:倉本由紀子
紀要社会学・社会情報学 第 26 号 2016 年 3 月
[要約]
本稿は日本の国際協力の中核であるODA(政府開発援助)を、国際開発規範との比較検証において分析したものである。まず日本のODAを概観し、国際開発規範と日本のODA政策における検証と、ODA大綱改定による国際社会への影響について考察を行っている。
日本はOECD(経済協力機構)に加盟しており、その傘下の開発援助委員会(DAC)のメンバーに日本も含まれている。DACでは「貧困層に配慮した経済成長を含む 持続的開発,貧困削除,途上国の生活水準の向上 および援助への依存から脱却した将来へ貢献する ための開発協力と他の政策の推進」を目的とし, 援助の量的拡大と質の改善,援助政策の効率を向 上させるための国際開発規範を加盟国で共有するため,加盟国の援助政策の「開発協力相互レビュー」 (OECD Development Co-operation Peer Reviews) を実施している。下上がって、加盟国はこの国際開発規範のもと、開発援助を行うことが期待されている。
しかし、ODA地域別実施、二国間ODAの分野別配分、二国間政府開発援助所得グループ別配分などのデータから、日本と他DAC加盟国との間では、開発援助の方針に一定の乖離があることが見受けられた。例えばODAにおいては、DAC全体としてサブサハラアフリカの比重が大きいのに対し、日本はアジア地域を重視している。さらに援助の分野の観点から見れば、DACは原則的に世界の南北格差の是正と人道支援の増加を国際開発規範として加盟国に促してきたが、日本はODA開始当初から経済インフラ整備を開発分野として重視している。一方でDAC全体平均としては教育は医療などの社会基礎インフラを重視している。
日本は「開発協力相互レビュー」を実施しながら、ODAの質と量の改善を行ってきたが、これら比較検証から示唆されるように、従来の経済中心の国益重視型のODA政策を復活させていることが明らかになった。「戦後 OECD が創りあげてきた国際開発規範 に同調できるような枠組みを築くためにも,日本は,他の DACメンバーとの国際協調を強化しつつ国際規範の遵守にも配慮し,深刻化する地球規模の問題解決に貢献できる国際開発援助を目指す べきである。」と、本稿では最後に提言されている。
[感想]
ODAは軍事力を行使できない日本にとって、国際社会で影響力を持つための重要な外交手段でもあると本稿で説明されている。ODAの外交的役割を痛感させられる経験があった。カンボジアのアンコール遺跡群を訪れた時のことである。アンコール遺跡郡はその地域の点々バラバラに各遺跡があり、それぞれが複数の国による開発援助で保護されている。各遺跡にはその援助の証として看板が建てられ、カンボジアと援助国の国旗が記されている。それは二国間の単なる友好の証ではなく、援助した国の国際社会へ向けたアピールとしての影響を持ってしまう。その点についてどこか違和感や悲しさのようなものを覚えるが、ODAの仕組み上仕方のないことなのかもしれない。
本書では国際開発規範の観点から、日本のODAに対して批判的見解を示すところがあったと思う。
確かに組織の一員として規範を遵守し、それに基づいた行動を取ることが期待されていると思う上に、その必要はあると思う。しかし、開発援助の観点から言えば、開発援助において大きな影響力を持つ組織が一丸となって、同様の援助を同様の地域に行うことは相応しくないと思う。援助の需要が特定の地域・分野に集中しているわけではないだろう。組織の規範を遵守することも重要だと思う一方で、各国がそれぞれの特性を活かし、それぞれが特定の地域・分野において重点的に援助をすることも1つの援助のあり方だと思う。
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