著: 井田 徹治 (2007) 岩波新書より
要約
和食を語るうえで欠かせない食材「ウナギ」。
また、ウナギは日本人だけでなく世界中の人々から愛される食材でもある。
人間の食文化に古くから結びついてきたウナギに、絶滅の危機が迫っている。
近年、日本でのウナギの需要が急増している反面、その漁獲量は激減している。
この原因のひとつは、ウナギを含む生き物にとって重要な湿地や干潟などが、開発により失われてしまったことだ。
また、河川に建設された水力発電のタービンに巻き込まれてしまいウナギが死ぬことも、減少の要因のひとつとなり、さらに人間による乱獲が追い打ちを掛けてしまっている。
日本国内や台湾などの地域で採取されたウナギの稚魚、シラスウナギの遺伝子解析をした結果、遺伝子的な差異は極めて少ないことが分かった。
つまり、日本で獲れるウナギは日本だけでなく、アジアにとっても貴重な資源であり、各国の環境悪化が他国の漁獲量に影響を及ぼすのは明白だといえる。
ウナギを絶滅の危機から救い、おいしく頂き続けるには、産卵場所である海から、沿岸部、河川まで広い範囲の良好な環境保全が必要である。
このためには、一国の取り組みだけでなく各国との協力が必要だ。
ウナギの環境保全活動の一方で、人工養殖への試みもなされている。
しかし、現段階ではシラスウナギから成長するまで数年を要し、コストが莫大なため、技術革新と継続的な投資がなければ、人工養殖を商業化することは難しい。
ウナギの漁獲量減少は、欧州でも大きな問題となっている。
欧州での需要は減少傾向にあるが、ここまで大きな問題になってしまった要因は、日本のウナギ需要増加だ。
欧州の漁師によって、ウナギに成長する前に捕獲されたシラスウナギは、中国などで養殖加工し、最終的に日本に輸出される。
日本のウナギ需要は、国内だけでなく世界中のウナギを脅かす事態になってしまっている。
ウナギの減少が深刻化するなか、日本の行政は、シラスウナギの環境保全を進め、密漁対策を整備するなどといった活動に消極的だ。
ウナギの保護や研究に予算を充てることは、世界最大のウナギ消費国である日本の責任である。今、必要とされることは、研究が前進するまでの間、ウナギの消費は自然の循環でやり繰りするしかないことを認識し、環境保全と養殖研究への投資を続けることである。
感想
ウナギは、その生態について未解明のことが多く、成長にも時間がかかる。
環境保全活動の成果が漁獲量の数値として現れるまでに、他の生物とは違い数年かかるため、地道な活動が求められると思う。
また、安価になり身近に感じられるようになった鰻だが、その背景にある環境問題へ日本人が関心を持つことが必要だと感じた。
私たちの活動も自然を相手にしていることから、すぐに結果が出るものばかりではない。
初めから結果を得ようとするのではなく、まず問題を理解することに時間を使い、根気よく活動を続けることが大切だと思った。
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