著:前野ウルド浩太郎(2017) 光文社新書より
『ファーブル昆虫記』に感銘を受け、昆虫博士、特にバッタの研究を志した筆者。
彼は「虫害を撲滅して人類を救う」という目標を達成するため、そして「バッタに食べられたい」という自身の夢を叶えるために、アフリカのモーリタニアへ渡る。
しかし、モーリタニアでは様々な壁にぶち当たった。
宗教・信条の異なる現地住民、ワイロを求める空港職員、割高の賃金をせびる同業者――。
公用語のフランス語を話すことができず、コミュニケーションの壁が立ちはだかる。
そのうえ、アフリカ人特有の文化(African time) や、信ぴょう性の薄い情報に振り回される始末。
何より、「自然」というものの不確実性が大きな壁だった。
「大量発生して穀物を荒らしているはずのサバクトビバッタが、大干ばつのせいで見つからない…。このままでは、バッタの研究ができなくなってしまう!」
そんな危機的状況の中でも、筆者はあがき続ける。
まず、バッタの代わりに山ほどいた、ゴミムシダマシの観察を始めた。
どんな壁が立ちはだかっても自らの創意工夫で乗り越え、すぐに論文のネタになりそうなことを見つけ出していく。
そのままゴミムシダマシの研究を進めるのか??
と思いきや、やはりバッタの魅力は忘れられず、バッタ研究に戻るのであった。
アフリカを食糧難から救うため、そして、「バッタに喰われる」という夢を叶えるために。
とはいえ現実は甘くはなく、研究費と生活費が保障された2年間は、結局思うような結果を残せずに終わりを迎えてしまった。
「このままでは終われない!」
彼は、研究者にはあるまじき行為(広報活動)を行う決意をした。
国内でバッタフィーバーを起こして、自身の研究の後押しをしてもらうねらいだ。
日本に一時帰国すると、トークショーや雑誌での連載、ネット動画配信などで、バッタ研究や筆者自身の知名度を着実に上げていく。
そんな時に受けた白眉プロジェクトに合格し、彼は念願の研究費確保に成功した。
「モーリタニアでバッタをもたらす大雨が降った」との情報を聞きつけると、彼は再び現地に飛ぶ。
研究費の心配が無くなったこのタイミングで、幸か不幸かアフリカに甚大な被害をもたらすバッタが大量発生したのだ。
おかげで筆者の研究は大きな前進をみせた。
モーリタニアでの研究は、ここで終わりを迎えることになった。
「バッタに食べられたい」という夢は叶わなかったものの、彼は終始バッタの大群と闘いつつ、自然を愛し続けた。
また、どんなときでも研究者としての信念を持ち続けていた。
自然をテーマに活動する我々にとっても、その姿勢には見習うべきことが多いはずだ。
(完)
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