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国際課題・途上国問題に関する学習活動のグローバル人材育成への有用性の検討 ―国際協力機構および東北大学のプログラムの事例から―(2020年1月日本語論文)

更新日:2020年3月14日

富田 真紀 (2018)『東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要 』4巻  259-267


要約

この論文は東南アジアでのスタディツアー(以下FS)と欧米諸国のスタディツアー(以下SAP)、グローバルゼミの三つのプログラムを比較し、 グローバルコンピテンシー(グローバル社会でのリーダー)向上の有用性を検証したものである。結果として国内外問わず国際社会に向き合い解決する過程が重要であることが示唆された。


現状分析

グローバル社会で活躍できる人材を育成するこ とが急務であると認識されて久しい 。グローバル人材の定義は様々であり、 表現や項 目は各大学で多少異なっている が語学能力、チャレンジ精神、異文化理解が類似する項目である。大学などの教育機関で質の高いグローバルリーダーを輩出するためのメカニズム構築が求められている。


グローバル人材育成 のためには海外留学・研修など方法論やアプローチについて議論されることが多いが何を学ばせるのかというコンテンツが重要なのではないか。2015年には持続可能な開発目標(SDGs)が採択され 17の開発目標 が掲げられた。4番目の目標「質の教育をみんなに」の一つに持続可能な開発のためのグローバル市民教育を促進することが挙げられる。このようにSDGsと絡めたコンテンツが有能なのではないか。つまり、国際課題や途上国の現状を学び広い視野と教育を醸成することは有効な方法なのではないかと考える。


では国際課題や途上国の現状を学ぶことがグローバルコンピテンシー向上にどの程度効果的なのか。近年、日本政府はJASSOの留学奨学金の給付に力を入れたり、「トビタテ留学JAPAN」を構築するなど留学支援に力を入れている。その結果、日本人留学生の数は2009年から2015年には2.3~2.4倍に増加した。しかし、留学者数減少傾向にあるという報告があるように、学生の内向志向が指摘されている。留学の重要性を理解しつつ、留学だけに頼るのではなく学内での国際化に係る学習活動が重要である。グローバル人材に必要な異文化理解は普段の生活環境が異なる途上国得られることが多い。途上国で適用せざる負えない状況下に置かれることで自ら課題を発見し、課題解決を模索することで、柔軟性、精神的タフネスが育まれる。


分析方法

グローバルコンピテンシー(グローバル社会でのリーダー)向上の有用性を検証するための方法として東南アジアでのスタディツアー(以下FS)と欧米諸国のスタディツアー(以下SAP)、グローバルゼミの三つのプログラムの参加後のグローバルコンピテンシーおよび行動や価値観、考え方を比較した。FSとは二週間、カンボジアかラオスで途上国開発現場を見学するプログラムである。SAPは4~5週間アメリカかニュージーランドで多文化社会について学ぶプログラムである。グローバルゼミは学校の授業で国際課題や途上国の現況を学ぶものである。


分析結果

1、FSの方がSAPよりも「社会の一員としての積極的に社会に参加したいという考え」や「社会的に弱い立場や困難な状況にある人を積極的に助けたいという考え」が強く、社会の一員としての自覚、責任感が遥かに高い。

2、グローバルゼミの方がSAPよりも社会の社会の一員としての自覚、責任感が高い。

このような結果から社会の一員としての自覚・責任感の醸成は単に海外へ行くことよりも国内外問わず、国際課題や途上国の現状を向き合う経験をすること、その社会の現状を受け止めた上で自分の今後の在り方を考えることが重要であると示唆された。




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